シャワーを軽く浴びたあと、絵里は脱衣所で用意していた服に着替える。膣内からどろりと溢れた白濁液がショーツを汚す。さすが、大輔が三日も溜め込んでいただけあって、拭いても拭いても溢れ出てきてしまう。
 生理が始まる直前だったので、そこまで妊娠の可能性があるわけではないと絵里は知っている。
 結婚をオッケーしたあとすぐに中出しかぁ。もう、えっちなんだから。と、笑うだけだ。

 スカートをはいて、プリーツにシワがないか確認する。ウエストが入るか気になっていたが、何とか入った。スカートの上に肉が乗ったりもしていないので、絵里は嬉しくてテンションが上がる。若干、お尻が大きくなった気はするが、誤差の範囲だろうと思うことにした。
 久しぶりに袖を通し、ブラウスのボタンを留めていく。鏡を見て大きさがピッタリであることを確認する。絵里は太りすぎず、痩せすぎず、体型を維持してきたというわけだ。

「偉い、私!」

 自画自賛しながらリボンをパチンとつけて、白いソックスをはいて、ベストとジャケットを羽織れば、完成。
 二十六歳の、アラサー女子高生が鏡に映る。

「んー……アウトかなぁ」

 ちょっと無理があるかな、というのが絵里の率直な感想だ。
 十年前と比べたら、肌のハリも衰えているし、顔も相応になった。生足にソックスでは寒すぎて、厚めのタイツが欲しくて仕方ない。
 大輔からのリクエストとはいえ、絵里は無性に恥ずかしくなる。

「大ちゃん?」

 リビングに戻ると大輔がいない。トイレにもいない。二階で物音がするので、二階だろう。大輔の部屋だろうかと階段を見上げる。

「大ちゃーん?」
「俺の部屋!」
「はーい」

 階段を上り、奥にある大輔の部屋の前に立つ。大輔のリクエストなのだから、笑ったら絶対殴ってやる、と拳に力を込める。けれども、絵里の心臓はやたらとうるさく跳ねている。深呼吸をし、ドキドキしながらドアノブに手を置いて、絵里はドアを押し開ける。

「失礼しまーす……って、大ちゃん!?」

 机と本棚とベッドしかないシンプルな部屋のクローゼットの前に、大輔がいた。真っ黒な、学ランを着て。

「わ、ちょっと太った?」
「みたいだな。ウエストがパンパン。絵里は大丈夫そうだな。かわいい」

 大輔は目を細めて微笑んで、じいっと絵里を見つめる。彼から爆笑されなかったことに安堵しつつも、あんまり見られると恥ずかしい気持ちになる。絵里はドアの前に立ったままだ。

「おいで」

 その言葉でようやく足が動く。大輔に近づくと、防虫剤の匂いの彼から抱きしめられる。絵里も学ラン姿の大輔の背中に手を回して、抱きしめる。暖かい。少しずつ緊張が解れていく気がする。
 それは大輔も同じなのか、彼は嬉しそうに絵里の体を撫で回して、大きな溜め息を吐き出す。

「はぁー……かわいい。十年前にこうしたかった」
「でも、十年前の大ちゃんは涼子に夢中だったじゃん」
「そういう時期もあったけどさ……一番は絵里だったよ。大事だったから、手を出すのが怖かった。そしたら、安藤に横から攫われた」

 大輔の顔を見上げて、絵里は笑う。私はいつ手を出されても大丈夫だったのに、という言葉は飲み込む。思春期のすれ違いを今蒸し返すのは、さすがに野暮だ。

「大ちゃん、好き……キスして」

 絵里に請われるまま、大輔は彼女の額にキスをして、遠慮がちに唇に触れる。さっきの舌を求め合うような激しいキスのあとに、高校生がするようなぎこちないキスをする。
 けれど、それでは満足できない。二人とも、思考も体も、大人になってしまった。

「絵里、かわいい。かわいいよ」
「大ちゃんもかっこいい。学ラン、似合うねぇ」
「今似合うって言われても、なぁ。複雑だな」

 大輔が絵里の下唇を甘く食み、指を絡め合う。大輔が絵里の左手薬指の指輪を撫で、笑みを浮かべる。

「やっと、手に入れた。これからはずっと俺のものなんだよな?」
「うん」
「絵里、好きだ」

 ぐっと唇を割って口内へ侵入してくる大輔の舌に、絵里が舌を絡ませる。大きく口を開けないと、大輔のすべてが入らない。
 ぜんぶ、欲しい。大ちゃんが、ぜんぶ。
 貪欲なまでに相手を求める。下腹部が疼く。熱を欲して、甘く疼く。
 高校生では絶対こんな――肉欲的なキスはできなかっただろう。お互いに思う。「今」で、良かった。

「だい、ちゃ、わたし、もう……」
「駄目。まだあげない。高校生の絵里を堪能してからね」
「やだ、焦らさ、ないで」

 ジャケットとベストのボタンは既に外れている。リボンがぼとりと落ちる。ブラウスのボタンを上三つだけ外して、大輔は絵里の首筋と鎖骨に舌を這わせる。
 あ、胸触られたら、我慢できなくなっちゃう。
 大輔の太くて硬いものをズボンの上から触りながら、我慢できない絵里はベルトを緩める。トランクスの中に指を入れ、先端の先走りを指に絡め取る。もう、そこはぬるぬるしている。

「大ちゃん、舐めたい」

 キスマークをつけるのに熱中していた大輔が、一瞬驚いた表情を浮かべたあと、ベッドに腰かける。
 絵里は大輔の足の間に座って、彼を見上げる。ズボンもトランクスも脱ぎ去って、学ランのカラーも取り去って、上半身だけ学ランの、高校生の大輔だ。
 すごい格好だけど――いい眺め。絵里はペロリと唇を舐めた。

「声、我慢しなくていいから」

 鈴口に軽くキスを落として、さらに下のほうへ唇を進ませる。そそり立っているものの側面に舌を這わして、唾液を落とす。鈴口から少し濁った蜜が溢れてきているのを絵里はチラリと見て、竿の付け根に舌を押し当てる。

「……っ」

 付け根から強く舌を押し当てて、上へと滑らせる。筋のところは丁寧に、執拗に。その間に、手で扱く。大輔の腰が揺れるのを見て、絵里は嬉しく思う。
 もっと気持ちよくなっていいよ、大ちゃん。
 鈴口から溢れた蜜が筋までゆっくり下りてくる。蜜を舐め取り、出処に舌を這わす。咥える前に大輔を見上げると、目を閉じて快感を享受している姿が絵里の目に入る。
 かわいいのは、どっちよ、ほんと。

「……っあ」

 亀頭ごと口に含むと、大輔の甘い声が落ちてくる。腰も震えている。
 ん、かわいい。
 咥えたまま舌を動かして鈴口を刺激すると、大輔が腰を引く。もちろん、絵里が逃がすつもりはない。
 ぐっと大輔のものをできる限り奥まで咥える。口の中いっぱい。熱くて太くて硬い。美味しいものだ。歯を当てないように気をつけて上下に動かすと、大輔の短く甘い吐息が聞こえる。
 声、我慢しなくていいのに。
 じゅぷじゅぷとわざと音を立てて、絵里は大輔を煽る。チラと彼を見上げると、顔を真っ赤にして、とろんとした表情で自分を見下ろしているところだった。一瞬視線がかち合って、「交替しろ」と無言で脅される。
 え、嫌だよ。
 主導権を渡すつもりは、絵里には、ない。

「絵里」
「ん、もう欲しいの? えっちなのはどっちなの、大ちゃん」
「……っ、あ、手はやめろって」

 大輔から扱く手をやんわりと止められる。彼が手ではイキたくないタイプだと絵里は知っている。口の中か、絵里の中、どちらかで果てたいタイプ。つまりは、イキそうなのだ。

「じゃ、望みを叶えてあげよう」
「ちょっ、ま」

 拒否をしようとする大輔をベッドに押し倒し、彼の太腿の上に腰を置く。スカートが汚れないよう、ふわりと広げておく。学ランを着たままの大輔の体の上に、スカートが花びらみたいに咲いている。それを見下ろして、絵里はうっとりと笑む。
 あぁ、なんて、蠱惑的な光景なの。
 大輔の太くて硬い熱杭を自身の花弁に宛てがい、ゆっくりと腰を落としていく。膣内に大輔の剛直を咥え込んでいく。その圧迫感が気持ちいい。癖になる。

「あ、っ……ん、ん」

 大輔が先ほど出した精液と自身の粘液のせいで、絵里の中はぐちょぐちょでぬるぬるだ。愛撫なんかは必要ない。大輔が絵里に快楽を与えようと胸に手を伸ばすが、それを止めて、彼の手を腰へと誘導する。

「まだ、イッちゃ駄目だよ」

 最初は膝を立て、ゆっくり、腰を上下に動かす。浅く、深く、浅く、浅く。大輔は浅いところで亀頭をいじめられるのが好きなのだと知っている。絵里は深いところで繋がるのが好きだ。しかし、今は大輔に気持ちよくなってもらう時間だと自身を律して、絵里は足を立てて、速く浅めに動かす。

「あ、っ、絵里っ」
「駄目。イカないで」
「でも、も、イキそ」

 ぐ、と奥まで大輔のものを咥え込んで、絵里は動きを止める。彼の切なそうな目が、たまらなく愛おしい。ぐにぐにと腰を前後に揺らして、奥に大輔の先っぽが当たる感触を楽しむ。
 大輔が苦しそうに「イキたい」と喘ぐ。その目の中に自分だけ映して欲しくて、絵里はその切ない喘ぎ声を唇でふさぐ。
 学ランのボタンを一つずつ外していき、その下のTシャツをまくり上げる。高校時代から少し肉がついて柔らかくなった大輔の体。だらしないとは思わない。ただ、年齢を重ねただけだ。
 愛しいと思いながら汗ばんだ指で彼の肌をたどると、びくりと腰が跳ねる。淡い茶色の乳首を舌で押しつぶすと、大輔は「ああっ」と嬌声をあげる。乳首が弱いようだ。
 ほんとかわいい。

 こんなセックスは、絶対高校生ではできなかった。
 大輔の乳首が弱いことも知らなかったし、絵里が騎乗位が好きだなんてこともわからなかった。もし、十年前に二人が恋人同士になっていたとしても、果たしてこんなふうにお互いを楽しませ悦ばせることができたかどうか、わからない。
 酸いも甘いも噛み分けたあとの二人だからできる、十年越しのセックスなのだ。

「大ちゃん、イキたい?」

 絵里の問いかけに、大輔がうんうんと頷く。

「高校生の私の中で、気持ちよくなりたい?」

 舌で大輔の乳首を捏ね回しながら、絵里は笑う。

「高校生の私に犯されて、イカされて――孕ませたい?」

 びくりと大輔の体が震える。
 それを合図に、絵里は足を立てて、深く、速く、締めつけながら腰を動かす。左の乳首は舌で舐め続け、右は指で捏ね回したまま。大輔が好きなプレイで。

「……っ、く、あ……絵里、駄目、いく」
「いいよ、おいで」

 直後、絵里の中で大輔の肉杭が膨張して、彼の体がびくんと跳ねる。甘い吐息が漏れる。大輔が気持ちよさそうな顔をして何度もびくびくと痙攣する間、絵里は同じ速度で腰を動かし続ける。

「わあああ、駄目、もう駄目、絵里っ!」
「ギブ?」
「ギブ、ギブ! ギブアップ!」

 大輔が絵里の動きを止めようと腰に手をやる。イッたあとにまだ腰を動かされることがどれだけの刺激になるのか、絵里にはわからない。しかし、大輔が悲鳴をあげるくらいにくすぐったいらしい。
 んもう、しょうがないなぁと腰の動きを止め、絵里は大輔を見下ろす。大輔は顔を両手で覆ってしくしくと肩を震わせる。

「こんな激しくされて……もうお嫁に行けない……」
「いや、私が嫁に来るんでしょ」
「そうだけど……も、無理……搾り取られた……」

 ベッド脇の箱ティッシュをつかんで、絵里は笑う。

「毎晩上になってあげるから、期待してて」
「……俺、死んじゃうよ……」

 死なない程度に搾り取るテクを身につけないとなぁ。
 絵里はまだ大輔の体で色んなことを試す気満々なのだ。もちろん、大輔は気づいていない。残念ながら。

◆◇◆◇◆

 二人は制服を着たままベッドで眠る。シワになっても構わない。クリーニングに出す予定なのだ。

「大ちゃん?」
「なに、絵里?」

 腕枕をしてくれている大輔の顔が目の前にある。暖かい。彼にそっとキスをして、絵里は微笑む。

「今、大ちゃんにこうしてもらえて、幸せ」
「俺も。十年前の絵里じゃなくて、良かった」
「でも、なんで制服でしたかったの?」

 大輔は、照れくさそうに笑う。

「十年前は絵里を彼女にできなかったから、何となく悔しくて」
「悔しい?」
「安藤が絵里の初めてをぜんぶ奪っていっただろ。キスも、セックスも。高校時代の絵里との思い出が、あまり思い浮かばなかったから……ちょっと上書きしておこうと思って」

 なるほど。自分の初めての彼氏にヤキモチを焼いてくれていたらしい。絵里はニヤニヤしてしまう。
 かわいいなぁ。本当にかわいい。
 でも、訂正。

「何言ってるの。私のファーストキスは大ちゃんだよ。覚えてないの?」
「え?」
「小学三年生のときだっけ? 台所にあったサンタの置物を一緒に買いに行ったときに、したでしょ?」
「……え?」

 小学三年生、は覚えていたのに、キスは覚えていないらしい。
 どんな記憶力なの、まったく。
 絵里が大輔をじろりと睨む。彼はしばし考え込んで、そのあとすぐに赤面した。思い出してくれたようだ。

「……ごめん、してた。しておりました」
「忘れるなんて酷いなぁ。あのサンタを二人で持ったまま、ツリーの下でかわいくキスしたのに」
「したね、うん、した! ……ごめん。忘れていたみたいで」
「まぁ、いいよ。大ちゃんと車の中でキスしたのが、今のところ一番だから」

 半年前、大輔に告白されてからのキス。それは絵里にとって、一生忘れないキスだ。初めてお互いに心が通じたときのキスだから。

「絵里」
「うん?」
「入籍は、正月でいい?」
「え、早くない?」
「早いほうがいい。絵里を誰かに取られたくないし」
「いや、取られないし。ずぼら女を嫁にもらってやるなんて奇特な人、大ちゃん以外に知らないよ、私」

 親戚がたくさん集まる正月。顔合わせとしてはちょうどいいかもしれないと絵里は思い直す。親戚中を回って結婚の報告を何度もするのは面倒くさい、という気持ちが勝ったのだ。効率の問題だ。

「ね、絵里」
「んー?」
「今日はいっぱい愛し合おう? もっと中に出したい」

 耳元で囁かれた言葉に、ぞくりとする。膣内が疼き、どろりと大輔の精液が出た気配がある。

「もー、がっつきすぎ、大ちゃん」
「征服したいの、絵里を」
「制服を着たまま?」
「うん」

 その割には私に征服されていませんでしたか、大輔さん?
 意地悪な言葉を飲み込んで、絵里はぎゅうと大輔を抱きしめる。

「いいよ、何度でも来て。受けとめてあげるから」
「愛してるよ、絵里」
「私も」

 チラリと見えた窓の外。暗い曇り空から、白いものが降り始めている。
 ホワイトクリスマスだ。

「やっぱり、雪、降ったねぇ。旅行、大丈夫かなぁ」
「こら、絵里、俺だけ見て」

 嫉妬深い大輔の笑顔だけ、絵里の視界におさめて。二人は笑う。

 メリー・クリスマス!

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